福祉タクシーを開業する動機は人それぞれです。ここでは、大分県中津市で事業展開されている、「福祉タクシー梅の花」の木田さんを紹介します。以下の文章は、日本福祉タクシー協会が発行する「サルサ」に掲載されたものです。私たち日本福祉タクシー協会の会員さんは、大石さんのように高い志を胸に開業されています。
〜介護に捧げる人生〜 『福祉タクシー 梅の花』
今月ご紹介するのは、大分県中津市で『福祉タクシー梅の花』を開業した木田さんだ。木田さんは事務職一筋の仕事人生を大変換し、今年1月、念願の福祉タクシーをはじめた。
「私には自慢できることがないから、真面目にコツコツ働くことを心がけています」と笑う木田さん。木田さんは約30年間、会計事務所の事務職にあった『経理のプロ』だ。しかし、そのスキルを閃かすことがない、実に謙虚な人だ。木田さんの仕事に対する姿勢は、「とにかく楽しんで働くこと」だ。毎月繰り返される単調な仕事にも、笑顔で向き合い、勤めあげてきたという。
「よく人に、『仕事が好きなんでしょう』っていわれますが、本当は家でのんびりしたいですよ(笑)。でも、仕事のおかげで生活ができるわけだから、誠実に向きあおうって思ってます。とにかく、働けることに感謝ですよ…」と木田さん。
人にとって『仕事』とは何か? その答えが凝縮した言葉だ。
『働けることに感謝する』。私たちが失いがちな心を、木田さんは30年間大事にしてきた。『真面目にコツコツ頑張ること…』この仕事に対する姿勢が、木田さんという人間の正しさ・美しさを端的に表しているようだ。
人は愛する家族のために働く。木田さんも、お子さんを大学にあげるため必死で働いてきた一人だ。そんな木田さんの『仕事観』が変わったのは、お子さんが大学を卒業し就職してからだという。
「子供から手が離れて、これからは自分のために、自分を活かせる仕事がしたいと感じていました…」と木田さん。しかし、その思いは漠然としていたので、何がしたいかをみつけられないまま、数年間の時を過ごした。
そんなある日、木田さんは偶然会った友人から次のような話を聞かされた。
「僕のやっている介護の仕事は、キツイし大変なんです。でも、社会が必要とする、意味のある仕事ですよ」
そう話したのは、福岡県で福祉タクシーを経営するAさんだ。Aさんは周辺の事業者に師と仰がれる存在だが、当時の木田さんはそんなことを知る由もない。
「そのお話をお聞きしたとき、福祉タクシーの仕事に強く惹かれました。でも、私には到底できない『責任のある仕事』だって思いましたね」と当時の心境を語る木田さん。福祉タクシーが自分を活かせる仕事だと確信したが、そこへ踏み出す勇気がなかったという。
介護は『心』と『体』に触れる仕事だ。やりたいからといって安易に進むべき道ではない。木田さんは自分にそう言い聞かせながらも、福祉タクシーの仕事に魅せられていった。
それから2年後、再びAさんと顔を合わせた木田さんは、心の中で暖めた『福祉タクシーへの思い』をうちあけた。
「自分にできる仕事だろうか? 自分にその世界に踏み込む資格があるだろうか?」木田さんは葛藤し続けてきた胸の内を安藤さんにぶつけた。
Aさんは、そんな木田さんに笑って答えたという。
「確かに僕たちの仕事には、覚悟が必要です。でもその前に、僕たちを必要としてくれる方がいることを知ってほしい。自分に務まるかという前に、目の前の方の声に応えたい…。そういう気持ちが大切だとは思いませんか。」
Aさんの言葉に、木田さんは目から鱗が落ちる思いだった。そして、福祉タクシーの仕事に就く決心を固めた。福祉タクシーに心惹かれてから、実に4年の歳月が流れていた。
開業を決めた木田さんは大きく変わった。「私にできるだろうか」という迷いは、「私がやらなければならない」という決意に変わっていった。開業までの準備は大変だったが、『自分を必要としてくれる人がいる…』その一点で、どんな苦労も吹き飛んだという。
「自分を活かせる仕事と、人の気持ちに応える仕事は同じなんだ。心から感謝できる仕事がここにあった…」。それに気がついたとき、木田さんは介護者としてどう生きるべきかを悟った。
さて、『福祉タクシー梅の花』の開業エピソードの最後は、Aさんの言葉で締めくくろう。
「あの人は飽きれるくらい生真面目で、『車椅子を命がけで押してます』なんていうんですよ(笑)。彼女にとって、介護の仕事は真剣勝負なんでしょうね。今は同じ志をもつ仲間ができたことを、心から嬉しく、そして誇りに思っています」
福祉タクシー梅の花は、今日も命がけで車椅子を押す。その手から伝わるひたむきさは、多くの利用者の心を癒すだろう。
日本福祉タクシー協会会員
福祉タクシー 梅の花
大分県中津市上如水 675-2
TEL 090-4347-6269
|
|
|
|
|
|